サラ、帰ろう。—ロマサガ3・エレン編の「自由」
※ネタバレを含みます
RPGの「サガ」シリーズには、やり込みプレイ向けの主人公が用意されていることが多い。「ロマンシング サ・ガ3」だと、エレンがそれにあたる。
彼女には固定のイベントがひとつもない。元々の能力も高いので、無茶な遊び方によく使われる。
個性がないように見えるエレンだが、彼女の視点から見た物語は、8人の中で最も人間らしく、切なく感じる。
シノンの開拓民、エレンは退屈だった。
自分ではなにもできない、妹のサラの面倒や、そんな関係にはなれそうもないと言ってるのにデートに誘ってくる、幼馴染のユリアンの相手をする日々。
村一番の腕っ節をもてあます日々。そんな毎日は、ロアーヌのモニカ姫の護衛をしたことがきっかけで終わりを告げる。
自立心に目覚め、都会へ行ってしまうサラ。
モニカ姫に惚れられ、プリンセスガードとしてロアーヌに留まることになったユリアン。そのときエレンは、自分にはなにもすることがないことに気付く。
エレンは自由になってしまう。
おそらくエレンは、自由になることを恐れていた。
サラの面倒を見て、ユリアンを軽くあしらって、退屈な日々の中で「与えられた役割」を消化する方が楽だった。
全編を通して、エレンの目的はたったひとつ。
自らの宿命を知ってしまったサラを、「エレンの妹」に戻すことである。
エレンがサラの秘密に気付いていたかは、ゲーム中では一切描かれていない。しかし、実の妹ではないことは知っていはずだ。
酒場でひとりになったとき、エレンは気付かされる。
「不憫で哀れでかわいい妹」に依存していたのは、自分自身だったのだ。
最後の戦いを前にしての、エレンのセリフはとても短い。
サラ、帰ろう。
このひと言にエレンが込めた想いは、単なる妹への愛だけではなかったのではあるまいか。
エンディングは、最後の戦いに誰を連れて行ったかで変わることになる。
望み通り、みんなとシノンへ帰ることもできるが、サラとの別れを選ぶ結末の方が、私はロマサガ3らしいと思っている。
変わってしまった運命はもう戻らない。
エレンはすっかり逞しくなり、自分の知らない仲間たちと旅立つサラに、せめてもの餞の言葉を贈るのだった。
あんたいつまでもあたしの妹よ。